保健センタースタッフへのホスピタリティ研修

PHJの事業地シェムリアップ州ソトニクム保健行政区は、妊婦健診受診率、医療者介助分娩率、施設分娩率は州内他地域と比較していずれも最も低いという課題を抱えています。
調査をしたところ、保健センタースタッフの態度や振る舞いで不快な思いをしたといった理由で保健センターを利用しない女性が多いことがわかりました。

医療におけるホスピタリティ(コミュニケーションや温かみのある対応など患者に対する心配りや態度)は、患者の満足度を高め、治療効果を向上させる重要な要素です。カンボジアでは、医療の適切な知識やスキルが医療サービスだと考えられる傾向にあり、保健センタースタッフのホスピタリティの重要性に対する意識は高くありません。


この状況を改善するため、保健センタースタッフを対象にホスピタリティ研修を実施しました。
この研修では、患者の尊厳を尊重すること、傾聴すること、伝わりやすいコミュニケーション、年齢に応じた来院者への対応方法などを学びました。

研修後は、保健行政区スタッフが定期的に保健センターを訪れ、保健センタースタッフが来院者に対して丁寧で寄り添ったコミュニケーションを行っているかなどを確認しています。

参加者からは、
「患者に寄り添ったサービス提供をすれば来院者が増えるとは考えたことがなかった」「ホスピタリティの重要性を初めて認識した」
などの声が寄せられました。

研修後は、保健センタースタッフがお互いに来院者への対応を確認するようになるなど、保健センター全体でホスピタリティ向上に取り組む動きが見られ、
月に一度の保健センタースタッフ会議では、自発的にホスピタリティ向上について話し合うようになりました。

【本事業はJICA草の根技術協力事業とサポーター企業・団体、個人の皆様からのご支援により実施しています。】

「異なる文化と出会う」埼玉大学スタディツアー2024 


埼玉大学の授業の一つである「異なる文化と出会う」および「開発人類学調査法」として開講されたカンボジアスタディツアーを
今年もPHJのカンボジア事業地で実施しました。スタディツアーの主な目的はカンボジアの農村という異なる文化を持つ人々の中に身をおいて、インタビューを行うことで、現地の状況を五感を通して「知る」こと。
PHJは事業地内での調査受け入れをはじめ、事前授業、現地調査のための調整、アテンド、通訳などを行いました。

カンボジアに到着した次の日はプノンペンで内戦の歴史を知るために、トゥールスレン虐殺博物館とキリングフィールドを訪れました。
トゥール・スレン虐殺博物館は、ポル・ポト政権(クメール・ルージュ)下の1975年から1979年までの間に、拷問・殺害の場所として使用されました。遺体を埋めたり処刑場として使用された場所がキリングフィールド。
当時、医師や教師などの知識層を中心に200万人以上の人々が虐殺されました。

ガイドさんと何気なく話していたら、ポルポト政権下、彼女のお父さんは行方不明になり、そのまま帰らぬ人になったとのこと。
職業を聞くと大学の教授でした。
掲示されているモノクロの残虐な写真は遠い昔の誰かの話ではなく、
目の前にいる身近な人が経験したごく最近の話しなのだということに気づかされました。

次の日は、PHJの事業地 シェムリアップに移動し、PHJカンボジア事務所に到着。事務所長石山によるPHJの活動紹介やカンボジアの食や暮らしなどの紹介を行いました。

農村地のフィールドワークでは、車で2時間半かけてたどり着いた農村地で、地域住民にインタビューをします。
インタビューと一言で書きましたが、通訳をするPHJ現地スタッフは母国語以外は、英語しかわかりません。

質問をするときは、英語でPHJカンボジア現地スタッフに聞きます。その内容をクメール語(カンボジア語)に翻訳してもらいます。対象者からの返答も英語に訳されるので、それを理解して、また次の質問を考える、という流れなのです。
英語で質問をすること、癖のある英語を聞き取り理解すること、などいくつものハードルを乗り越えて、インタビューを重ねていきます。
最初は戸惑いながらも、徐々に積極的に質問をするようになります。
後から「意外にも楽しかった」と話す学生さんが何人かいました。
学生さんにとって、カンボジアの農村地にすむ人たちに、直接質問をして得られた回答は、単なる情報以上の価値のあるものだと思います。

農村地のインタビューが終わった後は、観光へ。
トンレサップ湖を船で1時間ほどめぐりました。トンレサップ湖の水上村の一部エリアも、PHJの事業地です。
陸上と水上ではまるで暮らしが違うことが改めて感じます。

最後にアンコールワットを堪能しました。

カンボジアという国のリアルな姿を五感を使って「知る」ことができたのではないかと感じています。

保健ボランティアによる地域住民への保健教育開始

PHJの事業地シェムリアップ州のソトニクム保健行政区では、妊婦健診受診率、医療者介助分娩率、施設分娩率が同州内の保健行政区と比べていずれも最も低く、多くの女性が保健サービスを利用せず、リスクを負いながら妊娠期を過ごし、子どもを出産しています。

その背景として、カンボジアの多くの農村部と同様に、同保健行政区でも、妊産婦の健康を害する恐れのある伝統的な風習が根強い傾向にあります。また、保健施設の医療者に対する不信感や保健サービスに対する抵抗感を抱いている、といった実態が見えています。

PHJは安心安全な妊娠と出産にかかわる適切な知識の普及のため、地域住民を対象とした保健健ボランティアによる保健教育・啓発活動を進めています。

研修を完了した保健ボランティアによる地域住民への保健教育を4月に開始しました。
1年の中でも最も気温の高い時期ですが、
多くの地域住民が集まり、和気あいあいとした雰囲気で保健教育が始まりました。

この保健教育では、妊婦健診のタイミング、妊娠中の危険な兆候に焦点を当てました。
教育終了後は、クイズや質疑応答を通じて、参加者の理解を促しました。

また、保健施設への医療者や保健サービスに対する抵抗感を減らすため、実際に保健センターで出産したお母さんたちに、施設での出産経験を共有してもらいました。

あるお母さんは、不安がある中で、妊婦健診から出産まで保健健センターの助産師が継続的に寄り添ってくれたことなどを話してくれました。

多角的なアプローチで、一人でも多くの女性が安全な妊娠・出産に向けて意識や行動が良い方向に変化することを目指しています。

【本事業はJICA草の根技術協力事業とサポーター企業・団体、個人の皆様からのご支援により実施しています。】

【開催報告】カンボジアの活動報告と英語講座イベントを開催しました。

5月30日にJICA地球ひろばにて「世界遺産のそばで取り残される母子の健康&駐在員が教える国際協力のための英語講座 PARTⅡ」
をオンラインと対面のハイブリッド形式にて開催しました。

イベント前半では現在カンボジアで実施している「シェムリアップ州ソトニクム保健行政区における安心安全なお産のための保健システム強化支援事業」(JICA草の根技術協力事業)の活動の内容や、見えてきた課題についてPHJカンボジア事務所長の石山加奈子がお伝えしました。

たとえば、「妊娠中に地酒を飲むといい」など、健康を害する恐れのある伝統的な風習が根強く残っている地域が少なくないこと。そうした課題に対して、保健ボランティアによる地域住民への保健教育を支援し、健康に関する知識の習得と適切な行動を促進していることなどを紹介しました。

地域住民への保健教育を行うボランティア

 

後半は、同じく石山が講師となり、国際協力の現場で使える英語講座を実施。国際保健に関する英単語の語源や歴史的な背景を通して国際保健への理解を深めました。参加された方は熱心に耳を傾けてくださいました。

 

カントット保健センターへ安全な水の支援

カンボジアの農村地では、一般診療や分娩が行われる保健センターといった医療施設でさえ、安全な水を確保するのが難しい状況があります。

こちら、PHJの事業地にあるカントット保健センターの水道の蛇口をひねると、なんと茶色の水が出てきていました。

水源を確認すると、この沼であることが判明。この水を使って、医療器材などを洗浄していました。

そこで井戸による水の供給の支援を行いました。地面を掘削し、井戸を設置しました。掘削前と掘削後に水質検査を行い、安全な水であることを確認しました。

 

モーターポンプで水をくみ上げ、地中のパイプを通って、保健センターのタンクに井戸水がくみ上げられ、保健センターの水道に水が供給されます。

保健センターの蛇口から安全な水が出るようになりました。

併せて、安全な飲み水を来院者に提供できるように、ウォーターディスペンサー(1台)を寄贈しました。

井戸による水の供給が可能になった保健センターでよりよいサービスやケアが提供できればと思います

【本事業は成田コスモポリタンロータリークラブ様からのご支援により実施しています。】

保健センタースタッフから地域住民に向けた妊娠・出産の相談会

3月に6つの保健センターで妊娠や出産にかかわる疑問や質問に保健センタースタッフが答える相談会を行い、
合計72人の地域住民が参加しました。

各保健センターには妊婦も含め多くの地域住民が参加し、
健康的な食事や妊娠期の危険な兆候、妊婦健診についての質問がありました。

具体的には
「エコー検査がおなかの中の赤ちゃんに悪影響を及ぼさないか不安です」
あるいは、
「妊娠中にお酒を飲むこと、ベッドの下に火を焚くことは、
慣習となっていて良いことだ信じてきたが、健康に悪いと言われた。本当にそうなのか?」
といった質問がありました。

保健センタースタッフは、ひとつひとつの質問に丁寧に答え、
地域住民の中に根付いている健康に害を及ぼす恐れのある習慣を改善することや
妊娠中の適切な食事、休息、適度な運動の重要性について強調しました。

また、何か問題や体調に異変があった場合は、
すぐに保健センターに来院するように啓発しました。

この活動を通して、妊娠・出産に関する不安の解消や疑問の解決、
住民と保健センタースタッフの信頼関係の構築などが期待できます。
このようなコミュニティレベルの活動を今後も継続していきます。
【本事業はJICA草の根技術協力事業とサポーター企業・団体、個人の皆様からのご支援により実施しています。】

村の保健ボランティアの能力強化研修

農村地で安心安全なお産を支えるためには、「保健ボランティアさん」は欠かすことのできない存在です。
保健ボランティアは、Village Health Support Group (VHSG)のメンバーとして、カンボジアの各村に2人ずつ配置されます。
地域住民と保健センターや保健センタースタッフとの橋渡し役として、
保健教育を通して適切な保健知識を伝えたり、健康に関する相談にのったり、
地域の人々の健やかな生活を包括的にサポートします。

PHJは、事業地の6保健センターが管轄する村の保健ボランティアの能力強化研修を開始しました。
能力強化研修は、保健ボランティアが村で行う保健教育のための適切な知識とスキルを習得することを目的としています。
今回の研修では、妊婦健診と安全な出産に関する保健教育に焦点を当てています。
具体的には、妊娠期の危険な兆候の見分け方、保健センターでの妊婦健診と出産に関する啓発、保健に関する記録の取り方、家庭訪問の方法などを習得します。


講義だけでなく、グループディスカッションやロールプレイなど、
参加型のアプローチも取り入れ、より実践的な研修となりました。

【本事業はJICA草の根技術協力事業とサポーター企業・団体、個人の皆様からのご支援により実施しています。】

 

安全なお産をささえるダイアリー

PHJカンボジア事務所ではオリジナルダイアリーを制作し、
新年にPHJの事業関係者、たとえば現地カウンターパート、保健センタースタッフ、ボランティアなどに配布します。

1月に開催された保健ボランティア会議で、保健ボランティアと会議参加者に手渡しました。

このダイアリーはスケジュール管理やメモ帳とともに、母子の健康に必要な基礎的な情報もイラスト付きで含まれています(PHJの活動紹介も!)。
また、保健センターに連絡するための情報も記載されています。

ダイアリーを使って活動予定の管理や情報を整理することで、保健ボランティアの取り組みがより充実することを目指します。

会議の際に手ぶらで参加する人が少なくないので、このダイアリーを常に持参して、活動の予定や記録、会議の内容を記録する習慣をつける効果もあります。

「カレンダーとノートと保健教育の機能がひとつにまとまっていて、とても使いやすい」と保健ボランティアさんが話してくれました。
多くの人が手帳を使っている日本と違い、カンボジアの農村地域に住む保健ボランティアにとって、一年間使い続ける大切な一冊になります。

【本事業はJICA草の根技術協力事業とサポーター企業・団体、個人の皆様からのご支援により実施しています。】

 

医療者の指導・監督のための勉強会の実施

助産師の能力強化は、より安全安心なお産のために不可欠な要素のひとつ。そのために、助産師に対するスーパービジョン(指導や評価)が重要な取り組みです。
PHJでは、保健センターの現場で働くスタッフに対する指摘や評価で終わらせず、具体的な改善につなげていくサポーティブ・スーパービジョン(支援的監督)の効果的な実施を進めています。

12月に保健センターの助産師に対するスーパービジョンを行うシェムリアップ州保健局とソトニクム保健行政区のスタッフの勉強会を実施しました。
勉強会の講師は、保健省のスタッフ。保健省が定めるガイドラインに則って、妊婦健診、産後検診、分娩介助、緊急搬送についての講義、ダミーを使った演習、チェック・リストの使い方の説明と実技が行われました。


助産師などの保健センタースタッフに改善が必要な部分を指摘するだけでなく、改善につながる具体的な知識の補足や共有、技術の向上の助言までできるように配慮した充実した勉強会となりました。

【本事業はJICA草の根技術協力事業とサポーター企業・団体、個人の皆様からのご支援により実施しています。】

助産師の能力向上を促進するスマートフォン活用の研修

この数年、新型コロナウイルス感染症拡大による影響で、医療従事者を対象にした研修が中止されたり、受講人数が制限されるなど、貴重な研修の機会が限定されてしまいました。
こうした状況下で、感染症流行や自然災害などにより研修の実施が困難な場合に備え、助産師がスマートフォンで学習できるアプリ「セーフ・デリバリー(安全なお産)」やWEBサイトの教材が整備されました。

カンボジアでは携帯電話の普及が進んでおり、農村地でも多くの人々がスマートフォンを使用しています。そのため、医療現場でもITを活用した助産師の能力強化の取り組みが期待されています。
しかし、事業地の保健センターの助産師の多くが、メールアドレスを持っていないなどの理由で、アプリの登録やアカウント作成ができないなど、実際の活用に至っていないことが分かりました。

そこで、10月に助産師を対象にアプリの登録やWEB教材の利用方法を学ぶ研修を行いました。研修に参加していない同僚助産師にも、アプリの登録・利用方法の説明ができるよう振り返りが何度も行われました。
登録が早く完了し、その場で研修を受けている助産師もいました。


安全安心なお産に向けて、より多くの助産師がスマートフォンでいつでもどこでも知識や技術の向上に取り組んでもらえればと思います。
【本事業はJICA草の根技術協力事業とサポーター企業・団体、個人の皆様からのご支援により実施しています。】


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