助産師卒後教育トレーニング ネピドー公衆衛生局の視察

2017年5月より実施している助産師卒後教育トレーニングですが、助産師を管理監督する立場である「ネピド―公衆衛生局」から定期的に視察団が来ます。
7月にも1回視察に来ており、どのようなカリキュラムで行われているか、教材として何を使用しているかという点に関心を持っていたようでした。また、公衆衛生局タッコン郡保健局担当の医師が保健教育を指導する場面もありました。(下記写真)

公衆衛生局の看護部門を担当する副課長は「私たちもネピド―管区の助産師たちを対象にしたトレーニングを定期的に開催しているが、どのように教えればいいか模索中です。助産師に必要なのは物ではなく、知識です。」と言っていました。
ミャンマーの助産師卒後教育を支援するという共通の目標に向かって、今後もネピド―公衆衛生局と連携していきたいと思います。

助産師の卒後教育トレーニングを実施中

ミャンマーの助産師は助産師養成校を修了後に村の一次医療施設であるサブセンターに配属されます。新人であってもすぐに即戦力として働かなければならず、新人助産師の中には、学生時代に分娩を一件も介助することなく、現場に出ることになってしまう助産師もいます。周囲には頼れる先輩もほとんどいなく、自分一人で判断していかなければなりません。そして、助産師の卒後教育もままならないのが現状です。

(自宅分娩で赤ん坊を取りあげた助産師)
PHJでは2017年5月中旬より、タッコン郡の全助産師約41名を対象とした5日間の助産師トレーニングを5回に分けて行っています。
このトレーニングは2016年から約1年間に渡って行った助産師のスキルチェックの結果を基に構成されています。
妊婦健診や産後検診に関する項目で半分以下の助産師ができていなかった知識や技術の項目を復習することを目的としています。
さらに、このトレーニングでは講義に加え、演習にも力を入れています。模型を用いて分娩介助技術や新生児蘇生法のスキルチェックも行いました。

(分娩後の傷の観察方法について説明する産婦人科医)
休憩時間に、模型を使って分娩介助の練習を繰り返し行う熱心な助産師もいました。

(新生児蘇生法の講義)
研修を受けた助産師からは「産後出血時の対応や呼吸停止の新生児蘇生の演習を受けたことで、こうした緊急事態に対して自信がつきました」との声が聞かれました。

彼女たちが現場に戻った時に実際にどの講義や演習が役に立ったかをヒアリングしていきたいと思います。
>>本活動を支援する助産師教育募金へ

「出産体験を語る」助産診療センターの利用促進活動

助産診療センターでの出産件数をあげるため、カンタ―村の助産診療センターで母子保健教育と合わせて助産診療センターの利用促進活動を行いました。

自宅出産が当たり前だと感じている人に、助産診療センターで出産するメリットを理解してもらうのは至難の技。
そこで、実際に助産診療センターで出産した女性に、その体験とともにセンターで出産するメリットを語ってもらうことにしました。
協力してくださったのは4か月ほど前に助産診療センターで出産した34歳の女性。

彼女の話によると
以前は出産時に自宅で伝統的産婆さん(医療知識を持たない出産介助人)に介助してもらいましたが、今回は妊婦健診の際に助産師のすすめにしたがい助産診療センターで助産師に介助されて出産し、自宅での出産に比べてとても安全だと感じたとのことでした。
このようなリアルな体験をもとに助産診療センターでの出産に関する前向きな話を他の参加者と共有することができました。
今後は、出産体験の共有だけでなく、ツアー形式で助産診療センター訪問など予定しており、実際に見たり、聞いたりすることで助産診療センターの良さを肌で感じてもらい、助産診療センターの利用促進向上を図っていきます。

取り残される妊婦さん

村で助産師さんが行っている予防接種の活動に同行させてもらいました。
今回訪問した村はGwe Pinという人口1220人、世帯数261のプロジェクト地域のうちの一つの村です。
プロジェクト地域のタッコンタウンシップでは、予防接種は各村、毎月1回行われます。
そのほとんどが保健・医療施設で行われるよりも、村に助産師さんたちが出向いて行うほうが多いのです。
また、この予防接種と合わせて村で妊婦健診を行うこともあります。予防接種は子どもだけではなく、妊婦さんも対象にしています。それは妊娠中に受けなければならない破傷風の接種が2回義務付けられているからです。そして、助産師さんが常駐するサブセンターから離れている地域に住んでいる妊婦さんたちが妊婦健診を受けられる機会でもあります。そこで出会った1人の妊婦さんの話がとても衝撃的だったので紹介します。
彼女は27歳で2人目の子どもを身ごもっています。
農家で働いており、この予防接種の日も農作業中に畑からコミュニティーのメンバーが連れてきました。
小学校を中退し、17歳の時に結婚し、18歳で妊娠しました。妊婦健診は一回も受けず、自宅で伝統的産婆の元、出産を試みましたが、陣痛が始まってからもなかなか生まれないため、病院に搬送され、出産しました。産後は会陰切開※の痛みのため、歩けなかったそうです。その後、3ヶ月後にその赤ちゃんは自宅で亡くなりました。病院に連れて行く時間もなく、息をひきとったそうです。
前回の出産の時になぜ1回も妊婦健診を受けていなかったかを尋ねたところ、助産師という存在自体を知らなかった。今回は、妊娠したら助産師に診てもらったほうがいいと、近所の人から聞いたため、助産師の元で一回目の妊婦健診をすでに受けたとのことでした。
助産師が村に訪問する際には村長から直接妊婦さんへ連絡が入ったり、村中に一斉放送をかけたりし、村の妊婦さんが助産師からのケアを漏れなく受けられるようにしています。
しかし、今回出会った妊婦さんは、前回の妊娠の時には居住地を転々としていたため、村長にも、助産師にも把握されなかったようです。今回は妊婦健診を受けられているようですが、彼女は携帯電話をもっていないため、助産師が自分の携帯番号を書いた紙を渡していました。彼女から健診に来ない限りは、助産師は何もサポートできない状況です。
このような事例から、保健サービスを本当に必要としている人々は、こちら側から把握する手段がなく、サービスがいかに届きにくい状況であり、取り残されてしまう存在であることがよくわかりました。
出産直前まで働かなければいけないと言っていた彼女。今回の出産での無事を願わずにはいられません。※会陰切開とは:出産の時に、赤ちゃんの頭が出やすくするために膣口と肛門の間を切開する方法
(海外事業部 志田保子)

適切な判断力を養うために―助産師会議

3月3日にタッコン郡事務所において、タッコン郡内の全助産師36名 (33名の助産師、3名の婦人保健訪問員)が参加し、助産師会議が開催されました。

今回の会議の目的は、農村部の自宅出産時(※)や村の一次医療施設での出産における緊急時の病院搬送において「助産師の適切な判断力を養うこと」です。発端は、搬送先である郡病院の産婦人科医が、村から病院に搬送された事例の振り返りを助産師と一緒に行った方がいいという助言により始まった、初の試みでした。

(↑講義の様子)

(↑産婦人科医自ら作成した講義資料)
会議では合併症として最も多い、「分娩後出血」と「妊娠高血圧症候群」について取り扱い、午前中は講義、午後は村や施設から郡病院に母体搬送があった重症事例の検討を行いました。
そして、事例検討の後には、村で助産師が搬送の判断に迷った事例についての共有も行い、産婦人科医から、その時の判断や対応について助言をしてもらいました。
講義の途中には、実務的な質問が出たりと、積極的な姿勢がみられました。

(↑実践的な演習も)
事例検討は、搬送時の判断が問われるため、産婦人科医師から助産師個人への批判にならないかを危惧していましたが、事前に医師と郡院長に説明していたこともあり、搬送先の産婦人科医師とのコミュニケーションをはかる良い機会となりました。

(↑事例共有)
会議にはタッコン郡保健局を管理監督するネピドー評議会から保健局担当者が視察に来ており、PHJが行っている実際の活動を知ってもらう機会にもなりました。
講義の前後に事前テスト・事後テストを実施し、助産師の理解度を測りました。事前テストでの全体の平均は62%、事後テストでは74%でした。

(↑事後テストを受ける助産師)
もちろん知識の確認だけでは、今回の会議の効果は測れないため、今後の搬送事例の検討をタッコン郡保健局のスタッフと共に行っていきたいと考えています。
※タッコン郡の農村部では自宅出産が全分娩の約半数を占めます。

村での母子保健教育の様子

母子保健教育は、助産診療センターだけではなく、住民の住んでいる農村地でも実施しています。
今回は、民家を借りて、産後の女性を対象に、産後のケアに関しての保健教育を助産師と補助助産師が中心となって行いました。
産後の女性と周辺の住民15名程度が集まった中での開催となりました。

(首も座っていない赤ちゃんをつれて産後のお母さんが参加!)

(近所の人も一緒に聞いています。)
保健教育の前と後に産婦さんたちの理解度をはかるテストを実施しています。今回参加した産婦さんは優秀で、教育後のテストの結果がとてもよくなっていました。
村の女性が正しい母子保健知識を得る場を今後も提供していきたいと思っています。

(教育の後のテストを受けるお母さん)

助産師のスキルチェック その2

昨年度に引き続き、村で妊産婦のケアを行っている助産師のスキルチェック行いました。

ミャンマーの助産師は2年過程の助産師学校を卒業した後、すぐに村の地域保健センターや助産診療センターに配属され、1人で診療にあたらなければなりません。
卒後教育を受ける機会も少ないため、PHJでは政府の職員と一緒に助産師のスキルチェックを行っています。
チェックの方法は、チェックリストに基づき、妊婦健診と産後検診に関する知識と技術を助産師を監督する立場にあるタウンシップ保健師長と婦人保健訪問員が評価します。
妊婦健診のチェックでは村の妊婦さんに協力してもらい実際に健診を行いました。
評価の後には、再度見直しが必要な点に関して、一対一で助言をもらいます。

チェックを受けた助産師からは「このような機会はないので今後も定期的に行ってほしい」との声も。

今回で、PHJのプロジェクトエリアの助産師全員の妊婦健診と産後検診のスキルチェックが終了しました。
今まで行ったスキルチェックの結果をもとに、今後、助産師のトレーニングを行う予定です。

助産診療センターの着工と母子保健ボランティア育成開始

【ミャイエ村 助産診療センターの着工】
ミャイエ村でいよいよ、助産診療センターの建築工事が始まりました。支援対象地域のミャイエ村では、助産診療センターの建物がないため、助産師さんの自宅での診療が行われています。
そこで、衛生的な施設での診療や健診、分娩が行えるようPHJでは助産診療センターを建築することにしました。

建築にあたっては、建築運営委員会を作り、村の人々が中心になって運営を行っています。

※助産診療センターとは
ミャンマーでは、村の人たちが病気やケガをしたり、妊婦健診や産後検診を受ける際には助産診療センターという村にある一次医療を提供する保健施設で助産師さんによる診療が行われています。
つまりミャンマーの村で働いている助産師さんは、妊婦のケアだけではなく、風邪や軽いケガなどの一般的な診療も行わなければなりません。
【ミャイエ村 母子保健教育のための母子保健ボランティアの育成】
ミャイエ村では助産診療センター建築と同時に、村で母子保健教育を行うための母子保健ボランティアの育成も始めました。ミャイエ村は市街地からとても離れた地域のため、出産に関する正しい知識を得られる機会が少ないのが現状です。母子保健ボランティアが、自分たちの住んでいる地域で母子保健教育を行い、多くの女性が出産に関する正しい知識を得られるようPHJはサポートしています。

母子保健ボランティアのトレーニングの様子

楽しく、気合も十分なボランティアさん達。

助産師のスキルチェックを行いました。

現地の母子保健状況を把握する一つの目安として、
助産師のスキルチェックを
2つの助産診療センターにて行いました。
チェックの対象となったのは14名の正助産師さん。
赤いロンジーをはいた助産師さんが、産前健診・産後健診で診るべきポイントや検査がきちんとできているかを
タウンシップの保健婦長が評価しました。

母子保健教育

PHJの活動地のアレージョン村、カンター村、ノイエ村、キンター村の4村で母子保健教育を実施しました。
取り扱った内容は、産前のケア。
アレージョン村で19人、キンター村 6人、ノイエ村10人、カンター村で13人が参加しました。
村の大きさや人口が異なるので、参加人数はばらつきがありますが、
村での周知が徹底していないところもあるようなので、
課題として取り組んでいく予定です。
ただPHJが支援を始めることで、定期的に教育が開催されるようになり、
母子へのケアの重要性を地域全体で認識し高めていくことに
貢献できると考えます。
写真はノイエ村の教育の様子です。


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